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7 手足を使って頭を目覚めさせる〜一番時間がかかることを大切にするために〜

 畑の学校を創る、そう決意してから、いろいろなことが少しずつ噛み合ってきたり、さまざまな出会いがやってきたりするようになっています。まるで見えない誰かに後押しされているかのように、物事が進み始めています。

 

 さて、そろそろ畑の学校〜The School of RESPECT〜でどんな学びをするのか、そのカリキュラムのことを書いていこうと思います。

 

 カリキュラムについては、さまざまな観点から考えていく必要があります。

 

 まず、子どもの発達段階。これはシュタイナーの人間観に基づいた7年周期の発達論がベースになります。第2・七年期は胸部領域が発達する時期であり、それは体的には呼吸や拍動が発達する時期であるということです。大人と同じような1体4のリズムを呼吸と心臓が刻めるように支えていくことはとても大切なことです。

 

 四層構造の観点からは、生命の成長を司るエーテル体が育つ時期になります。エーテル体は、形成力体と呼ばれることから分かる通り、思考やイメージなどを形作る力です。また、習慣や記憶、気質などが刻まれる体でもあります。それらが健やかに育つために、支える活動を考えていく必要があります。

 

 そして、これらの基本的な観点に加えて、現代的な状況を把握し、そこから何が必要かを考えるという時代的な観点がとても重要になってくると考えています。

 

 現代とは、どういう時代なのでしょうか?

 

 一時代前よりも生活が便利になった、世界中の人々とコミュニケーションが取りやすくなったなどの長所ももちろんたくさんありますが、子どもの発達という観点から考えると、どうしてもネガティブな面を考えざるを得ません。

 

 一言で言えば、子どもたちの感覚が健やかに育つことを阻害するような環境が普通のものになってしまっていると言えるでしょう。

 

耳に当てて会話をしているとすぐに耳が痛くなってしまうような強い電磁波を出すようなスマートフォンは、幼い赤ちゃんを持つ母親でも当たり前に持っています。学校ではタブレットが配られ、インターネットで検索することで図書館に行かなくても知りたいことについての情報が得られます。そのために、子どもたちが手足を動かして学ぶ機会が減っています。農薬や化学肥料を使った慣行農法で作られた野菜や、添加物がたくさん入った食べ物を口にする機会も圧倒的に増えています。そして、それらの結果として、子どもたちの感覚は健やかには育てず、学びや振る舞いに困難さを持つ子どもたちの数も、増加しています。

 

 このような現代という時代に、どんな教育が求められているのでしょうか?

 

 大きな原則として、「手足を使って頭を目覚めさせる」教育、ということがあります。これは、シュタイナー教育の中の大事な考え方です。

 

 子どもの発達を考えてみるとすぐにわかると思うのですが、人間は生まれてすぐに思考するようには創られていません。まずは体を動かす、運動する、感覚を働かせることから始めるようにできています。そのことによって自然や人も含めた周囲の環境と少しずつ結びついていきます。そして、徐々に頭が目覚めていくのです。

 しかし、現代の教育は、頭に偏っていて、手足は目覚められないままにとどまっているように見えます。

 

 畑という環境では、さまざまな感覚が働きます。鳥の声、土の匂い、美しい色合いの草花、額に流れる汗、ひんやりと頬を撫でてわたっていく風、太陽の日差しの強さ、雨の匂い。そこには、子どもたちの体を、心を安心させてくれるたくさんの要素があります。

 

 畑の作業にもたくさんの感覚や動きが必要です。

 例えば、一つの畝を端から端まで耕すのにどのくらいの力や時間が必要か、子どもたちは体験を通してそれをしっかりと感じることができます。一輪車に肥料を乗せるとどのくらいの重さになるのか、どのくらいの量だと自分は運ぶことができるか、バケツに汲んだ水の重さはどのくらいか、より疲れないように畑を耕そうとしたときにテコの原理をどのように使っていったらいいのか。そんなことも、体を通してわかるようになっていくでしょう。

また、一粒の黒豆から何粒の黒豆が収穫できるか、そしてその中からどのくらいの量をいただき、どのくらいを他の人に分け、どのくらいを次の年のために残しておくべきか。そんなことを日常的に考えていると、算数の学びが道徳的な在り方へと繋がっていくでしょう。

 

機械で作業を行うのではなく、手作業をすることによって、ただの数字や数式や公式が、自分の体で感じられるものとなります。また、働いていく中で、自分の体の中の力が育ってきて、同じ時間でより多くの仕事を行えることも実感できるようになってきます。

 自分の息遣いや鼓動を感じたり、風の涼しさを感じたり、鳥の声が疲れた体を癒してくれることさえもより明確に感じられるようになります。

 お互いの仕事が、そこにいるみんなのために役立っていることを具体的に感じられ、そこに大きな喜びも生まれます。

 

 畑の仕事を中心にカリキュラムを組んでいくと、巡りゆく命の流れに沿った自然なプロセスが浮かび上がってきます。そして、それらはすべて、目に見える、実際に体感できるものです。

 

 自分はここにいる。そしてこの世界の中にある鉱物や植物や動物と具体的に、実際的に関わっている。それらの中にある力とも直接的に関わっている。毎日過ごす畑の中で、長い時間を通してそのような感覚を育てていくこと、それが、より良い未来のために、現代という時代の中で、行っていくべきことだと思います。そして、それこそが、「手足を使って頭を目覚めさせる」ということなのだと思います。

 

 畑という自然環境をベースにしたシュタイナー学校作りを世界的に広めていらっしゃるドイツのペーター・グーテンホーファーさんは、こんなことをおっしゃっていました。

「人間の中で、一番早く機能するのは、エゴイズムです。それとは逆に、一番時間がかかること、そして骨が折れること、それが愛なのです。」

 

 エゴイズムの時代を変容させるためには、愛が必要です。そして、愛を育てるためには、「手足を使って頭を目覚めさせる」ことのできる畑の中のシュタイナー学校が、必要なのです。

 

2023710

栄 大和